No.17 感情とはどういうものか(1)

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2025.01.20

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No.17 感情とはどういうものか(1)

はじめに

これまでのコラムでは、音声により話者の感情を認識して感情要素を数値として時系列的に出力し、これを用いてビジネスに応用する場面を紹介してきました。

このとき、怒り、喜び、悲しみといった感情要素はどのようなものであるかについては、何となくわかっているという暗黙の了解のもとに説明してきました。

今回以降のコラムでは感情そのものについて深掘りし、数回にわたり、そもそも感情とはどういうものなのか、感情の由来はどこから来ているのかについて、感情に関する理論を紹介したいと思います。

感情とは

「感情」という言葉は日常的に使うにもかかわらず、感情とは何かを明確に答えられる人はほとんどいないでしょう。

「感情」以外にも「情動」や「気持ち」、「情緒」など類似の単語が多く用いられており、また日本語の「感情」に相当する英単語は emotion、sentiment、feeling、affect、などさまざまあり、専門の研究者でもない限り厳密に区別する人はほとんどいません。

したがって、本コラムでの感情という言葉にはある程度のあいまいさが内包されていることをお許しいただきたいと思います。

感情は何故必要なのか?

感情はヒトが生存し、社会的生活をおくるために不可欠な役割を果たしています。

もしヒトに感情がなかったならば、ヒトの種としての生き残りができなかったかも知れません。また集団で社会生活を営むことも困難であったでしょう。

感情には以下の役割があります。

(1) 生存と適応のための役割

感情は進化の過程で生存に有利な機能として発達しました。

例えば、「恐怖」は危険を回避するために必要な感情であり、危険を察知して即座に逃げる行動を引き起こします。

「怒り」は自己や仲間を守るための闘争心を生み出し、「喜び」は生存に必要な行動(食事や交配など)を促進する役割を果たします。

(2) 意思決定を助ける役割

感情は意思決定において重要な情報を提供します。

感情がなければ、あらゆる選択肢を論理的に比較検討し続けてしまい、適切なタイミングで決定を下すことができません。

実際、脳の損傷によって感情を感じる能力が失われた人は、日常的な意思決定が困難になることが知られています(例:アントニオ・ダマシオの「ソマティック・マーカー仮説」)。

(3) 対人関係を構築する役割

ヒトは社会的な存在であり、感情は他者とのつながりを築くために不可欠です。

「共感」は他者の感情を理解し、支え合うための重要な要素です。

「愛情」は家族や仲間との絆を深める感情であり、子育てや集団生活を支えます。

感情を共有することで、信頼や協力関係を築き、複雑な社会を維持することが可能になります。

 

 

感情は単なる主観的な体験ではなく、生存や適応、意思決定、対人関係において重要な役割を果たしています。

ヒトが個人として幸福に生き、社会的な存在として協力し合うために、感情は欠かせないものです。

基本感情説と次元説

感情はどこから来ているのかのかに答える為に、古くからいくつかの考え方がありました。

代表的な考え方に「基本感情説」と「次元説」があります。

(1) 基本感情説

ダーウィンの進化論と密接に関連した理論です。

感情は先天的なものであり、環境や文化に依存しない普遍的なものであるという立場を取る説です。

学者により異なりますが少数の基本感情を仮定します。

例えばこの説を取るアメリカの心理学者ポール・エクマン(Paul Ekman)の研究では以下の基本感情があるとされています。

 

喜び(Happiness)

怒り(Anger)

悲しみ(Sadness)

驚き(Surprise)

恐怖(Fear)

嫌悪(Disgust)

 

これらの感情には別々の神経回路が作動し、基本感情毎に別々の特有な生理反応パターンが存在すると主張する学説です。

これにより個体の維持や種の保存の確率が高まると言う説で、基本感情毎に特有の生理的反応パターンがあり、固有の神経回路が作動します。

例えば、外敵に遭遇して恐怖という感情を感じると、恐怖に対応した生理反応を引き起こし、外敵からの攻撃に身構え、攻撃をかわそうとする行動をとる確率が高くなります。

感情を持たない種はこの確率が低く、感情を持った種は感情を持たない種に比べて、外界の環境変化により良く対応できるので生き残ることができます。

恐怖の感情の例

もう少し詳しく説明すると、恐れの感情が引き起こされると、身体にはさまざまな生理的反応が現れます。

これは「闘争・逃走反応(fight or flight response)」として知られるものです。

この反応は、危険から逃げるか戦うために身体を準備させるもので、以下のような生理的変化が生じます。

心拍数の増加

恐怖を感じると、交感神経が活性化され、心拍数が増加します。

これにより、体がより多くの酸素を取り込み、筋肉にエネルギーが供給される準備が整います。

呼吸の速さと深さが増す

恐怖を感じると、呼吸が速く、浅くなることがあります。

これにより、体はより多くの酸素を取り込むことができ、急な活動に備えます。

血圧の上昇 

心拍数が増え、血液が体中に速く運ばれることにより、血圧が上昇します。

これも筋肉や重要な臓器に必要なエネルギーを供給するためです。

瞳孔の拡大

恐怖や緊張を感じると、瞳孔が拡大します。

これは周囲の状況をより詳細に、迅速に察知するための準備です。

視覚が鋭敏になり、危険を早期に察知するのに役立ちます。

筋肉の緊張

恐怖に対する反応として、筋肉が緊張します。

これにより、迅速に行動を起こすことができ、逃げる準備や戦う準備が整います。

汗をかく

ストレスがかかると、体温を下げるために汗腺が活発になります。

これにより、体温をコントロールし、過熱を防ぎます。

消化器系の反応

消化活動が抑制されることがあります。

これは、食べ物を消化するよりも即座に行動することが優先されるためです。

そのため、恐れを感じると消化が鈍くなり、胃がむかつくことがあります。

 

 

これらの反応は、恐れという感情が生存本能と深く結びついていることを示しており、危険を回避するための即座の行動が求められる場面で生じます。

(2) 感情次元説(感情の円環モデル)

基本感情説は、ラッセル(James A. Russell)により1980年に提唱された理論でエクマンの基本感情説に対していくつかの重要な問題点を指摘し、これに代わるものとして「感情の円環モデル(Circumplex Model of Affect)」を提唱しました。

エクマンは、基本感情(怒り、恐れ、悲しみ、喜び、驚き、嫌悪)が普遍的であり、それぞれが特定の生理的パターンに対応すると考えましたが、ラッセルはこの説に対して以下のような問題点を指摘しました。

基本感情の定義の曖昧さ

ラッセルは「どの感情を基本感情とするか」という基準が曖昧であると考えました。

また、文化や個人によって感情の表現や解釈が異なる可能性を無視している点も問題視しました。

 

感情の離散的な分類への疑問

エクマンの理論は、感情を明確に区別されたカテゴリーとして離散的に捉えていますが、ラッセルは感情が離散的ではなく、連続的なスペクトラムの中に位置づけられるべきだと考えました。

 

文化的影響の軽視

ラッセルは、感情の経験や表現には文化的な影響が大きいと考えました。

エクマンの理論が主張するような、完全に普遍的な感情のセットが存在するかについて疑問を呈しました。

 

感情の円環モデル(Circumplex Model of Affect)の提唱

ラッセルはこれらの問題点を踏まえ、感情がどれほどポジティブか、ネガティブかを表す「快-不快(pleasure-displeasure)」(横軸x)と、感情の強度レベルを表す「覚醒(arousal)」(縦軸y)という2つの軸に基づいて円環状に配置するモデルを提案しました。(下図参照してください)

このモデルでは、ある人のx軸の値がX、y軸の値がYであったとすると、この人の感情は(X,Y)と表現され、下図の例では点P(X,Y)がその人の感情を表します。

この2次元座標図の原点をOとしたときベクトル(OP) ⃗を感情ベクトルと言います。

このモデルでは、感情はPの位置により連続的に変化するものとされます。

その特徴を以下に示します。

 

感情の連続性

感情は特定のカテゴリーとして存在するのではなく、連続したスペクトラム上に位置するものと捉えられます。

 

グラデーションのある感情の捉え方

怒りや恐れ、喜びといった感情は離散的に区別されるのではなく、快-不快と覚醒の程度によって位置づけられるため、曖昧な感情や混合感情も説明可能です。

 

文化間の違いを考慮

ラッセルのモデルでは、文化による違いを包含しやすく、感情の普遍性を強調しすぎることなく、個人や文化による違いを許容します。

 

ラッセルは、エクマンのような「特定の基本感情が生理的に決定されている」という理論が感情の多様性を十分に説明できないと考え、感情を連続的・多次元的に捉える円環モデルを提唱しました。

このモデルは、曖昧な感情や複雑な感情状態をより柔軟に理解するための枠組みを提供しています。

 

おわりに

感情の学説に関してはこの2つ以外にもたくさんあり、今回は主要な学説を紹介しました。

現在、感情研究は脳科学の発展とともに急速に進んでおり、感情の起源に関して生理学的にもかなり理解が進んでいるとのことです。

次回は脳科学・生理学の側面から感情についてご説明したいと思います。

 

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