COLUMN

No24. デジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」と当社の対応

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はじめに

5月27日にデジタル庁から「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」が発行されました。
生成AIの活用に関するガイドラインは昨年2024年4月に総務省と経済産業省が共同で発表した「AI事業者ガイドライン」にも記載がありますが、これはAIを開発・提供・利用するすべての事業者(民間企業、自治体、教育機関、NPO等)を対象としているのに対し、デジタル庁のガイドラインは行政機関を対象に行政サービスにおける生成AIの調達・利活用の推進とリスク管理の両立を図るためのガイドラインです。
両ガイドラインは、対象や目的に応じて補完的な関係にあり、日本におけるAIガバナンスの基盤を形成しています。
このコラムでは、これらのガイドラインに対する当社の対応方針を改めて述べたいと思います。

ガイドラインのポイント

デジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」は、政府における生成AIの利活用促進とリスク管理を一体的に進めることを目的としています。

1. 目的と基本方針

利活用の促進とリスク管理の両立

生成AIの持つ可能性を最大限に引き出し、行政サービスの質の向上や業務効率化を図るとともに、潜在的なリスクを適切に管理し、国民の信頼を確保することを目指します。

人間中心のAI社会原則の実現

AIの利用はあくまで人間を補助するものであり、最終的な判断や責任は人間が負うという原則を重視します。

ガードレールの設定

安心・安全なAI利活用のための具体的な指針やルールを定めることで、各府省庁が生成AIを導入・運用しやすくするための基盤を整備します。

高リスク領域への挑戦

単にリスクを避けるだけでなく、適切な対策を講じた上で、困難だが価値の高い領域(高リスク領域)においても生成AIの活用に果敢に取り組む姿勢を示しています。

2. 主な内容

対象とするAI

主に大規模言語モデル(LLM)を構成要素とするテキスト生成AIを対象としています。 ただし、画像や動画を生成するAIについては今後の検討課題とされています。
特定秘密や安全保障、経済安全保障に関わる機微な情報を扱うシステムは対象外です。

AI統括責任者(CAIO)の設置

各府省庁にAI活用に関する統括責任者(Chief AI Officer: CAIO)を設置し、省庁内のAIガバナンス体制の構築、リスク管理、職員のリテラシー向上などを推進します。

デジタル庁による支援

デジタル庁内に「AI相談窓口」を設け、各府省庁からの技術的・制度的な相談に対応します。

リスクに応じた対応

AIシステムのリスクを「利用者の範囲」「業務への影響度」「扱うデータの性質」「人による最終確認の有無」といった4つの軸で評価します。
高リスクと判断される案件については、専門家で構成されるアドバイザリーボードへの事前相談を義務付けるなど、慎重な対応を求めます。

職員向けの利用ルール

  • 機密情報や個人情報の原則入力禁止
  • AIによる生成物のファクトチェックと修正の義務
  • プロンプト(指示)や生成された内容の業務記録としての保存
  • 第三者の著作権を侵害するような利用の禁止
  • 国外のサーバーを利用する際の承認プロセス

調達・契約に関するルール

AIシステムの品質、セキュリティ、倫理的配慮(有害・差別的コンテンツの排除など)、個人情報の取り扱いといった観点から、調達時に確認すべき項目を「調達チェックシート」「契約チェックシート」として具体的に提示しています。

適用開始時期

原則として2026年度以降に新たに調達・開発する生成AIシステムから本格的に適用されますが、2025年度の事業についても可能な範囲で本ガイドラインに沿った対応を促しています。

3. 対象者

主に、政府の各府省庁で生成AIの調達や利活用に関わる職員を対象としています。 独立行政法人や地方公共団体に対しても、このガイドラインを参考にすることが期待されています。

当社の対応方針

AI事業者ガイドラインについて

2024年4月に総務省と経済産業省が共同で発表した「AI事業者ガイドライン」に対しては、コラムNo.10で記載させて頂きましたが、このガイドラインを尊重し、できる限り遵守いたします。
具体的には次の方針で臨んでおります。

  • 個別のお客様とは必要に応じて、契約時に詳細にこのガイドラインの具体的な遵守方法を説明させて頂きます。
  • また当社の技術提携先であるNemesysco社及び Emotion Logic社と情報を共有し、適切に対応するように適宜両社に要請しております。
  • 基本的にリスクベースアプローチを採用し、AIを使う際にお客様の潜在的なリスクを予測し、事前にリスクを軽減するための方策をアドバイスさせて頂いておりますが、この際にAI事業者ガイドラインを活用する方針としております。

行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドラインについて

2025年5月27日に発表されたデジタル庁の「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用に係るガイドライン」に関しましては、行政機関を対象としたガイドラインですが、当社は、このガイドライン中に具体的に示された「調達チェックシート」及び「契約チェックシート」を尊重して、お客様との契約を行う方針としております。

参考:デジタル庁資料より調達 チェックシートと契約チェックシート