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No19. AI時代と感情労働(1)

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はじめに

労働には肉体労働、頭脳労働、及び感情労働の3種類があると言われています。
このうち、前者の2つはAIの進展に伴い質的に大きく変化し、そもそも従来の労働そのものが減少しています。
一方、感情労働はむしろ増加し、質的にも複雑になっています。
本コラムでは感情労働について考察し、感情解析が今後ますます重要になっていくことを2回に分けて感情労働とは何かその課題は何かについて説明します。

「感情労働」とは


皆さんは「感情労働」という言葉を御存じでしょうか。
肉体労働は主に体を使う労働で筋力や体力が求められます。
頭脳労働は知識や思考力を活用する労働でエンジニア、医師、弁護士などの職業が典型的です。
感情労働は米国の社会学者A.R.ホックシールドが著した「管理される心 感情が商品になるとき(世界思想社)」 (2000)により知られるようになりました。
これは労働者自身の感情を管理することにより報酬を得る職業のことを指します。
ホックシールドの著書では旅客機のキャビンアテンダントや債権回収(集金)業務を例に感情労働の分析を行っています。
是非一度読んでみてください。

現代の多くの職業はこれらの労働の要素を複合的に含んでいます。
例えば看護師は患者さんの介護をする肉体労働、医療知識を活用した頭脳労働、患者さんを安心させる対応の感情労働をすべてこなす必要があります。
医師や弁護士、教師などの対人関係が必須の職業も感情労働の要素を多く含みます。

最近のITテクノロジーやロボットテクノロジーの発展により肉体労働は人間から機械に置き換えられ、頭脳労働も最近の生成AIテクノロジーの発展により人間からコンピューターに置き換えられつつあります。
プログラマー、弁護士や医師の仕事もAIでできるようなりつつあります。
例えばAIがX線、CT、MRI画像を解析し、がんや肺炎などの異常を検出したり、病歴と最新の医学論文を分析照合して最適な治療プランを提案するということがすでに行われているとのことです。

ITやAIの進展により、肉体労働と頭脳労働の多くは自動化・効率化されつつあります。
それに伴い感情労働はむしろ重要性が増し、次のような理由で労働要素としての割合が増加していると言えます。

感情労働は機械に代替しにくい

感情労働には「共感」「気遣い」「対人コミュニケーション」が不可欠ですが、AIはまだ高度な共感力を持つレベルには達していません。
そのため、人間の関与が必要な場面が増えます。
例: カスタマーサポート、介護、医療、教育、営業、接客業など。

人間らしさの価値向上

AIがルーチン業務を担うことで、人間の価値は「対人関係」や「創造性」にシフトし、感情労働を伴う仕事がより重視されるようになります。
例: コーチング、カウンセリング、ファシリテーション

ストレス社会

生活や仕事のデジタル化が進むにつれて、人々のストレスが増大し、「人間らしい対応」へのニーズが高まっています。
例: AI対応の問い合わせに不満を感じる顧客は、人間オペレーターを求める。

サービス業の比率増加

先進国では製造業の割合が減り、サービス業の比重が高まっています。
サービス業の多くは「感情労働」を求める分野です。

「感情労働」の負担

上記で説明したように、今後私たちの労働環境は感情労働へと移行し、感情を理解し感情とうまく付き合っていくことが大切になります。
感情労働は以下のような点で労働者の負担が大きいと言われています。

感情の不一致

自分の本当の気持ちとは異なる感情を表現しなければならないためストレスが溜まりやすくなります。

共感疲労

相手の感情に共感し過ぎると自分自身の感情が疲弊してしまいます。

燃え尽き症候群

長時間にわたる感情労働により心身ともに疲弊し意欲を失ってしまいます。

最新の研究によると、デジタルコミュニケーションツールは頭脳労働者の生産性を向上させる一方で新たな感情労働の負担を生じさせることが報告されています。
★1また、コールセンター業務で生成AIツールの導入で顧客対応の一部が自動化され表面的な生産性は増加したが、AIの不完全性が原因で顧客の怒りや不満を受ける場面が増えたとの報告もあります。
★2いずれも労働者の感情労働の負担が増えることになります。
    ★1 Sabina Pultz, Kabita Dupret Roskilde University, Denmark
    ★2 Noah Oder, Daniel Beland Dept. of Political Science, McGill University, Canada)

終わりに

この数年、日本企業の生産性はOECD加盟国38各国中、30位あたりをうろうろしています。
この為RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用し、事務作業の自動化を推進、データ入力、請求書処理、顧客対応の一部をAIチャットボットが担うようにする、またリモートワーク・ハイブリッドワークの推進など、DX(Degital Transformation)や働き方改革活動を通じて生産性を上げる取り組みが盛んにおこなわれています。
これらは悪いことではないのですが、これらの取り組みにより感情労働の割合が増加し、労働者の負担がむしろ増えることに留意する必要があります。
従って、労働生産性向上とともに、感情労働の増加に伴う弊害を取り除く活動を同時に行う必要があります。

今回はAI時代における感情労働の増加と課題について説明しました。
次回は感情解析テクノロジーを用いて課題に対してどのように対処すべきかについて述べたいと思います。