はじめに
音声感情解析に関するテクノロジーの説明が続きましたので、今回のコラムから数回にわたり、音声感情解析を用いたソリューションについて紹介したいと思います。
ソリューションに関しては、コールセンターソリューションや、捜査支援ソリューション、採用ソリューションなど、主要なソリューションは当社のホームページに概要が記載されていますのでそちらをご参照下さい。
このコラムでは、主として海外の事例になりますが、少し具体的に、どのように音声感情解析を用いてどのような課題を解決しているのかを説明します。
意外な分野で音声感情解析テクノロジーが使われています。
311番サービス
読者のみなさんはニューヨーク市の311番サービスというのをご存じでしょうか?
日本では緊急電話は警察110番、火事・救急119番ですが、米国では警察・火事・救急は911番(Nine One One)で統一されています。
実はニューヨークなどの大都市では911番以外に311番という苦情専用電話番号があります。
これはニューヨーク市役所に対する市民からの様々な苦情や相談ごとを24時間体制で受け付けるサービスで、例えば次のような苦情や申告があります。
- 道に自転車が捨てられている
- 街灯が切れている
- 道路に穴が開いている
- 違法駐車している車がある
などの市民サービスに関する通報や
- スーパーマーケットの野菜や果物の品質が悪すぎる
- 隣の家の騒音がうるさい
- アパートの大家さんともめている
- 感謝祭での七面鳥の料理の仕方を教えて欲しい
などの日常生活の苦情や悩み事など多種多様なものになっています。
2003年にサービスを開始以来、現在では年間数百万回の通報・苦情を処理しているとのことです。
311サービスはメールやチャットでも受け付けているのですが、未だその多くは電話が使われています。
実はこのサービスには音声感情解析テクノロジーが使われています。
感情解析システムの導入
NY311システムには音声感情解析システムが導入されており、発信者からの電話は録音されると同時にリアルタイムで話者の感情、例えばフラストレーション、怒り、満足、緊急性、などが分析されます。
音声感情解析システムの詳細については公開されていませんが、複数のシステムが導入されているとのことです。
導入目的と効果
感情解析システムは次の目的の為に導入されました。
ケースの優先順位付け
感情解析により、緊急対応が必要なケースに優先順位を付けることができます。
怒りや苦痛などの強い否定的な感情が検出された場合、フラグを立てて迅速に解決したり、必要に応じて上位の機関にエスカレーションしたりできます。
膨大な数の苦情や悩み事を処理するには、優先順位をつけることが運用上非常に重要です。
音声感情解析は311システムの効果的な役割を果たしています。
カスタマイズされた応答
オペレーターは、発信者の感情状態をリアルタイムで把握できるため、応答を効果的に行うことが可能です。
たとえば、発信者が非常にイライラしているとか怒っていることをシステムが検出した場合、オペレーターはより共感的で落ち着いた口調で応答し、比較的スムーズに問題に対処できます。
この結果、次のような効果が現れました。
市民サービス政策に関する市民感情の把握
通話者の感情データを分析すると市民サービスや政策に関する広範な市民感情を把握することができます。
例えば、公共交通機関などの特定のサービスに関する多数の電話が一貫してフラストレーションの兆候を示している場合、何らかの理由で市民感情を悪化させていることが推測されます。
市はこれを調査して是正措置を講じ、大きな問題になる前に対処することができます。
オペレーターのトレーニング
感情解析を通して収集されたデータは、コールセンターオペレーターのトレーニングにも使用できます。
発信者の一般的な感情状態を理解することは、オペレーターが難しい会話に対してより適切に対応し、全体的なサービス品質を向上させるのに役立ちます。
AIテクノロジーが進化し続ける中、今後は感情解析と他のAIシステムの統合により、住民のニーズを予測し、いち早く都市機能の向上を行う予定と思われます。
このように感情解析テクノロジーは、都市間競争を勝ち抜くツールとしても応用されています。
おわりに
要約すると、ニューヨーク市の311コールシステムでの音声感情解析テクノロジーの使用は、より共感的で応答性の高いガバナンスに向けた重要な一歩を表しています。
住民の感情状態を理解することで、市はサービスの提供を改善するだけでなく、コミュニティとのより強力で信頼に基づく関係を育むことができます。